早いものです。
「線は、僕を描く」のあらすじや楽しむための解説も4回目になりました。
ごめんなさい、今回は横浜流星さんに関する直接的な話題はありません。でも、読んでくださいね!
漫画単行本は最終巻です。
漫画家雑学を書きます。昔、漫画界のスーパースター浦沢直樹さんに質問する機会を得まして「夏休みとかは、連載があるのにどうやって予定立てるんですか?」と聞いたのです。すると「掲載が始まれば、週間なり月間なりの締めの予定がわかっているから、カット割含めて頭の中でおおよそのスケジュールは作れているんです。もちろん、描いているうちに一部変更などはあっても大きくずれることはありませんから。」だそうでした。スッゲー!とびっくりした事を覚えています。週間マンガの進行からストーリーのカット割がイメージできて、お休みまでが何週なのかで掛け算して仕事量が想像できて・・・と言ってるわけですから別な意味で「天才!」って思いました。
「線は、僕を描く」 あらすじ その4
篠田湖山の名を冠する賞「湖山賞」を目指して青山霜介と篠田千瑛が会わなくなってどれくらいの時間が過ぎたでしょう。
大学の学園祭が終わり、そこで得た楽しい経験から霜介の心が光に照らされた頃でした。
「(生きている)菊から教えを乞い、描いてみなさい」という篠田湖山の説法(お寺などで御住職が人々に語るお話)のような難解な宿題と向き合い、部屋にこもって菊を描き続けているとき意外な人から電話が鳴りました。
湖山賞決定の4ヶ月前になります。
街がクリスマスで賑わっていた、そんな時に霜介の元に一本の電話が入ったのでした。
「湖山先生が倒れた。」
幸い、大事には至らずに済みました。
湖山は「命を描きなさい。君にならできるはずだよ。」と霜介にさらなる激励、なのですが霜介には「追い討ち」となる言葉を投げかけました。
そして、湖山が水墨画と出会った経緯や霜介に繋ぎたかった事を語りました。
水墨画ってとっても人生観に反映できるんです。線は、描く人を映します。作品は、作家に、どう人生を捉え向き合おうとしているのかを疑似体験させる恐ろしい美術なんです。
病院の帰り道を千瑛が車で送ることになりました。
霜介は、千瑛に頼んで寄り道をしてもらいました。
そして、他人に初めて「自分の心の中」を見せる行動を取りました。
「人の繋がり」「生きること」
霜介が湖山を通じて気づくことができた大切な想いを千瑛と共有しました。
新年を迎え、大学の仲間と初詣に出向いた霜介でした。
しかし、そのルックスが仲間を驚かせました。
別れ際の千瑛の言葉が気になりある行動に霜介はでたのでした。
「その長い髪を切ったら、少しは見晴らしも良くなるんじゃない。」
どうやら風邪を引いていた宗介。
初詣から帰宅すると体は高熱に。
うなされるように眠りについた霜介でした。
朝日の眩しさで霜介は、目が覚めました。
「ウッゥゥゥ」
花瓶に挿していた菊の輝きが今まで見えなかった「何か」を教えるように神々しく霜介に語りかけていました。
湖山からの言葉の意味が天から降りてくるように霜介の心に広がっていくのでした。
同時に、ほとんど無意識に墨を硯で擦り始めたのでした。
千瑛も本格的に作品を描くべく机に向かいました。
今までの彼女ではなく、霜介と出会い、その仲間達と出会い、感じたことが千瑛の内面を大きく飛躍させていたのでした。
そして、
湖山賞 公募展当日
湖山や周辺の期待はあるものの、水墨画をはじめて1年程度の霜介には受賞する欲はなく、ただ千瑛の受賞をそばで祝いたいという一心での会場入りでした。
予想通り、千瑛が湖山賞を受賞しました。
千秋の絵は牡丹でした。
湖山からの祝辞に涙が止まらない千瑛でした。
嬉しい!
自分のことのように千瑛の受賞を喜ぶ霜介でした。
そんな彼の耳に突然に響く「青山霜介くん!」というアナウンス。
それは・・・
やっぱり私には最後まであらすじを描くことはできません。砥上裕将先生の素晴らしいストーリーをぜひあなたご自身でお読み下さい。
まとめ
ここで漫画単行本全4巻のあらすじが終わったことでまとめを書きます。
私が、この「線は、僕を描く」の記事を書こうと思ったのは、水墨画の専門家とまったく映画が水墨画の初めての接点という人との繋ぎ役になれればと思いました。
私も少し水墨画を嗜んだ時期があったので、時々展覧会主催者からなんらかのお誘いがありました。
そんな関係者との会話の中で「線は、僕を描く」の話題を出したところ、その担当者がまったく知りませんでした。
小説になり、漫画になり、そして映画化されたのに、仮にも「雪舟(大昔の日本の水墨画の神のような人の名を冠した)・・・」と呼ばれるような展覧会を運営している会社の人間がです。
そして返す言葉が「だって、そうは言っても漫画でしょ!?」という見下した感たっぷり発言でした。
漫画は、情報の発信手段の一つとも言えます。
水墨画という芸術が少しでも知られ、始める人が増えたら喜ばしいと思うことが関係者の心だと思うのです。
本当の意味で美術であり「水墨画」を大切には思っていないのだと感じました。
横浜流星さんや清原果耶さん、そして各キャストの皆様の丁寧な取り組みに感謝します。
水墨画の未来が少し変わるのではと期待しています。
引き続き、こうやったら水墨画って身近に楽しめるのではなどを記事にしていきますのでどうぞよろしくお願いします。
千瑛の出展作品「牡丹」は超難しい!
映画でも清原果耶さんは、原作通りに「牡丹」を描くのでしょうか?
牡丹ってクソ難しいです!
筆に一旦濃墨を吸い込ませます。
水を入れた器で筆先の濃墨を半分弱洗い落とすように薄墨に調整します。
ここからは迷っていられません。
時間が経過すると濃墨が重力で下がってきて中途半端な薄墨とのグラデーションが生まれてしまうからです。
一気です。
勝負!です。
その状態で筆を寝かせながら小刻みに動かしながら扇形に動かすと、中心部が薄く外に向けて濃くなる花びらが完成します。
で、問題は、これが一回きりならなんということはないのです。
描きたい花びらの数だけ何度も繰り返すことに至難の作品と言えるのです。
墨もたくさん使います。
たくさんの墨をいっぺんにすることはほぼ無いので、途中で足すことになります。
濃墨の濃さを均一に仕立てる技術と眼力が必要になります。
つまり、そんなこんなで多くの調墨が必要になるし、多くの墨の濃さがばらつく条件や機会がたくさんあるのが「牡丹」なんです。
出来上がった時の充実感というか、パワーはちょっと特別なのですが、映画や展覧会に向けて描くのは・・・私は絶対に嫌です〜
*調墨とは、濃墨を水で薄めて最適な濃さの墨に調整すること
ちなみに、、、、
塗料を使った方が牡丹らしいということで赤の塗料を使うことがあるのですが、腕が悪いと「わぁーきれい!ハイビスカスですか?」と言われて5階から飛び降りたくらいダメージを受けます。
水墨画の醍醐味 濃淡の美学
私なんぞが水墨画を語るのはおこがましいのですが、少しでも初めて水墨画と接する方が楽しめる情報になればと思い書かせていただきます。
水墨画は、濃淡の美学です。
濃淡とは、濃い淡いもあるのですが、白と黒もあります。
補助線について
映画には関係ないと思います。
もしも、あなたが水墨画展覧会に足を運ぶことがあったら見てみてください。
薄墨で描いた植物の葉を今少し強調したい時には、じつは極細の筆で葉の輪郭を濃墨でなぞっていることもあります。
よく見ると薄らと濃いのです。
その補助線を描くタイミングも、改めて紙が乾いた状態で追筆することもあるのですが、隠し技としては、やや乾ききれていない時に、濃い墨を細筆に付けてからティッシュなどで水分を取り除きます。
すると筆が鉛筆のようになり、湿った紙のところでだけ濃墨を残していきます。残された濃墨は、湿った紙に広がるように吸収されるので「追筆感」が感じられません。
墨の特徴として、湿った紙に描いた線は「ぼやけた線」になります。
乾いた紙に書いた線は、光沢のある張りのある線になります。
空白の魅力
水墨画の特徴に「描かない美学」があります。
一枚の絵の中に描かない部分「空白」を残すことで、結果的に作品の想いが伝わる構図となっている事を意味します。
たしか、脳科学的にも、例えば手を描きたいときに、手を描くと左脳が働いていて、手の周辺を描くことで結果的に手が描かれている場合は右脳が働いていると言われています。
この考え方はとっても大切です。
小説の中でも、千瑛は「空白」を作ることに意識します。そして調墨含めて計算します。左脳派なのでしょう。
対して霜介は、感じたように描く右脳派といえます。
白く見える部分を「描く」のか「抜く」のか
雪を表現するなど「白」を墨の芸術である水墨画においても白い絵の具(ドーサ)のようなものを使う方もいらっしゃいます。
良い悪いは言いませんが、「線は、僕を描く」の水墨画指導・監修の小林東雲先生は技法解説の意味として紹介する程度でほとんど使用しません。
全て「抜き」ます。
*計算に基づいて、白い墨に浸潤されない領域を確保する技法
水墨画の展覧会閲覧のポイント
「線は、僕を描く」をきっかけに水墨画の展覧会へ行かれる方もいるかもしれません。
だから書きます。
作品のガラスの前に張り付いて鑑賞している人がほとんどです。
これ、間違いです。
雪舟の作品など当たり前ですが、昔は殿様の住む大広間や大きなお寺の襖絵に水墨画は描かれていました。
つまり、絵から5mから3m離れて「良い絵だぁ〜」と鑑賞していたのです。
1m以内で絵を見ても荒らしか見えません。
水墨画の醍醐味である濃淡も感じ難いので絵の価値の僅かしか楽しむことができないのです。
襖絵や屏風絵は、最初にせめて3m、絵によっては5m以上離れて鑑賞します。
そして「あれ?あそこってどう描いているんだろう?」など興味や不思議に感じたところを近づいてみるようにします。
そもそも、遠距離から見てバランスが良い濃淡で描かれた絵を1m以内で見たら、本来は絵のコントラストが強すぎます。
作品ではなく作者の名前で鑑賞しているならそれでも良いのですが、絵の楽しみ方ならその時代にどのような形で設置されたであろうか、ということを探求したり、時には学芸員の方に訪ねてベストな距離を聞くのもよろしいかと思います!
水墨画指導・監修 小林東雲先生 作品
*ご紹介しているチャンネルからリンクします
毎年1月頃に東京六本木にある新国立美術館において水墨画展を開催されています。
「美は国境を越える」だったかと。
国内の水墨画人口が減り、お教室の存続が危ぶまれている中で、小林東雲先生のお教室は何年も前から満杯状態。
また、国際的にも水墨画の指導及び普及に尽力されています。
美術展の参加者が減る中、小林東雲先生の開催する展覧会は一段では入り切らず、近い将来2段で展示するかというお話になっているとか。
参加は、諸外国多数となっていて、本当の意味で国際色豊かな展覧会となり、国内で開催されている他の作品展とは一線を画す印象です。
昔からの考えが展覧会主催者には多く、「作品が人の目に触れなければ画家が日の目を見ることがない」という弱みに漬け込みバカ高い出展料を求めたり、出展後に「先生〜実は・・・」と言って画集参加を30万円で勧めるなど群がる蠅のような輩が大勢いる世界です。
小林東雲先生のような巨星が新しい道を開拓してくださることは、これから、この「線は、僕を描く」から水墨画を始める人々にとって水墨画がクリーンで安心できる世界になると期待します。
ここで書いた水墨画についての知識が少しでも映画を楽しむ上でお役に立てれば幸いです。
水墨画家ではない私が描いたことでは、多少の間違いもあるかもしれません。どうぞ寛大なお心においてご容赦ください。
「線は、僕を描く」 senbokuキャスト
役柄 | 俳優名 |
青山 霜介 | 横浜 流星 |
篠田 千瑛 | 清原 果耶 |
篠田 湖山 | 三浦 友和 |
西濱 湖峯 | 江口 洋介 |
古前 巧 | 細田 圭央太 |
川岸 美嘉 | 河合 優実 |
藤堂 翠山 | 富田 靖子 |