昔からの職人さんというのはどんな業界も少なくなっています。そして、水墨画では最高級の画仙紙を作る製紙所が減っています。水墨画のすごい一面は「半永久的」な芸術であることです。墨に変色などの経年劣化はありません。痛むのは紙だけです。どのように描けるか、そしてどんな状態で維持されるのか。紙次第なのです。
「線は、僕を描く」あらすじ その3
人の優しさに触れて霜介の絵にはどんな変化が生じるのでしょう。
宗介は、千瑛に今自分が描ける精一杯の蘭を見てもらいました。
千瑛は、霜介の描いた線が様変わりしていることに驚くとともにその線の持つ美しさに引き込まれるのでした。
千瑛に絵を見てもらった後は、霜介は部屋に再び篭り春蘭を描き続けていました。
そんな時に大学の友人であり水墨画サークルの仲間から電話を受けました。
千瑛からの電話も重なり、霜介とサークル仲間の古前くんと川岸さんとの三人で千瑛に呼び出された植物園に向かいました。
霜介は、初めて見た千瑛の薔薇の水墨画がこの植物園の薔薇を描いたことを察しました
千瑛は「そんなことまでこの人はわかるの?」心の底から霜介の洞察力に驚かされました。
じつは、今回の植物園巡りは千瑛の先生でもある湖山会の斉藤湖栖の計らいでした。
みんなが集合し一通り生きている花々を見て回ったところで、湖栖は篠田湖山の自宅、みんなの水墨画練習場へ向かったのでした。
湖栖は胸の内を打ち明けます。
「湖山会を辞める」という決心でした。
調墨をはじめ、斉藤湖栖の技術は最高レベルでした。
しかし、先の西濱の描いた牡丹から受けた衝撃が湖栖をもっと広い世界へと「今」出るべきだと決心させたのでした。
最後の後輩への教えとして、斉藤湖栖は霜介に持っている技術の全てを伝授しようとしたのでした。
秋になり、水墨画サークルも学園祭に参加しました。
「水墨画体験コーナー」を中心にサークルメンバーの作品を出品しました。
霜介も新たな画題を独学で補いながら何とか自作を出展に漕ぎ着けました。
その霜介の絵は、見る者を強く感動させたのでした。
学園祭のフィナーレを飾るべく予想外のイベントが登場しました。
篠田湖山による「揮毫会(きどうかい)」、つまりライブ・デモンストレーションが開かれることになったのでした。
大学の理事長から頼まれたこともありますが、霜介のお世話になる学校ということもあり特別に用意されたイベントでした。
本気の篠田湖水の水墨画、降臨でした!
湖山の絵は、水墨画を知らない人たちにも強く印象付け、とても素晴らしい学園祭のフィナーレとして大評判となりました。
学園祭も終わり次は「湖山賞」!
千瑛と霜介は、湖山賞を目指し研磨することを誓うのでした。
ぜひ本を読みたい!と思った方はご活用ください!
女優 「清原 果耶」 の凄さ
きっと多くの映画を見る人たちは、主役である青山霜介役の横浜流星さんの水墨画を褒めることでしょう。
横浜流星さんもすごいです。
彼の蘭の葉の伸びやかで力強く、そしてスッーとキレのある弧を見た時はびっくりしたし感動しました。
ここで言いたいことは、清原果耶さんの篠田千瑛役では「最初から達人」でなければいけないのです。
やはり描き手を探したようですが、20歳そこそこの手の艶で達人の域に達している代役は見つからなかったそうです。
そこで清原果耶さんは特訓に特訓を重ねて、その現状いないはずの「20歳の達人女性」になったそうです!
指導した小林東雲先生は「蘭の葉などは私よりも上手になったと言っても言い過ぎではない。」といったニュアンスのことを感想として述べています。
見事な例えと感心したのですが、漫画家の浦沢直樹先生が「ペンは押して描き、筆は上げて描く。」と2つのツールの大きな違いをわかりやすく解説してくださったことがありました。
私たちは、押してものを書く習慣があります。
それだけでも「上げて書く」こと。
筆、つまり書道や水墨画の表現に対する最初の難しさがわかるのではないでしょうか。
それを1年足らずで映画の冒頭から全てを「若手女流名人」として演じ切った清原果耶さんはとんでもないバケモノクラスの凄い人だと言い切れるのです。
ぜひ、リスペクトの気持ちで映画をご覧になって下さい!
揮毫会 貼り付けた紙への実演の難しさ
「水墨画の実演会」とはライブ・デモンストレーションのこと。最高難易度がタテに据えられている大きな紙に書くもの。しかし、机の上で描くとしても水墨画は計画通りにはいきません。なぜでしょうか?それは、墨の濃度、筆に含まれる墨の量、筆圧などを毎回同じにするのは不可能だからです。微妙な違いが積み重なって作品は同じ欄を描いても毎回違うものに仕上がります。また、明らかに飛沫が飛んだ、予想外のところに墨が垂れてしまった、など起きることです。そんな時に「落ち込む」のではなく、その起きてしまった「結果」を次のステップの、発想力のきっかけにできると水墨画の世界観が一気に広がるものです。
*この記事は<あらすじ&水墨画を知りたい1>の中でもご説明している内容となります。
画仙紙の影響 安価な紙と高級紙
ある程度水墨画を経験すると展覧会などの出展向けの絵は高級な画仙紙を採用します。
高級な画仙紙は何が違うのでしょうか?
硬い?
白い?
そうですね、「厚い」が近いのでしょうか?
実際は、紙の中の繊維の層が増えることが重要な意味を持ちます。
安価な紙が一層構造とするならば、高級紙は2層や3層となってきます。
すると、薄墨の滲み方が大きく変わってきます。
高級紙は、見事にグラデーションを作ります。
が、想像以上に伸びるので慣れるまでは「エッー!」の連続です。
「お願いだからこれ以上来ないで(伸びないで)!」と進行方向の画仙紙の下に物を入れて小高くして防波堤を作ったりもします。
ドライヤーも使うことはあります。
でも、完全に乾かさないと「だいたい乾いたな。。。」という状態からも・・・結構伸びてくるものです。
本質的には、自然の墨の伸びやかさがしなやかな美しさに繋がります。
物理的なコントロールは、、、やはり不自然であり、未熟の証となります。
高級な画仙紙は、確かに丈夫です。
技法として、何度も霧で水をかけてから筆を走らせることがあります。
そんな繰り返しにも高い画仙紙は破れませんし、万が一破れても補修したことがほとんどバレません。
安価な画仙紙では、霧で濡らし、一気に筆を入れたらその瞬間にガチュッとちぎれたことが何度もあります。
「あ!練習紙だった。」と後の祭りです。
その他の道具 ご紹介
これで全てではありませんが、もう少し紹介します。
文鎮 | 正直あまり使いませんが、画仙紙をロールにしていると書き始めは丸まるので抑えます。 | |
筆置き | 書道ほど水墨画は所作がお淑やかではないのであまり使いません。小さい作品を書く際にあっても良いでしょう。 | |
小物入れ | 細い筆、朱肉、墨などが入っています。人それぞれに工夫しています。 | |
額彩 | 梅や桜には少しばかり色をつけることもあるので準備しておきます。 | |
透明ファイル | 各自が工夫するものですが、大きな刷毛で片隈を作るためには何度か刷毛を練ります。その際にやや大きな場所が必要になるので準備しています。 |
主題歌 挿入歌(公式サイトより)
「線は、僕を描く」 senbokuキャスト
役柄 | 俳優名 |
青山 霜介 | 横浜 流星 |
篠田 千瑛 | 清原 果耶 |
篠田 湖山 | 三浦 友和 |
西濱 湖峯 | 江口 洋介 |
古前 巧 | 細田 圭央太 |
川岸 美嘉 | 河合 優実 |
藤堂 翠山 | 富田 靖子 |